実際に見聞きしたことを中心に韓国のウンチク情報を紹介しています。妻が韓国人ならではのディープなネタもあります。


ある田舎の村に、貧しい若者がひとりで住んでいた。
小さい時に両親を亡くし、人の家の手伝いをして暮らしていたため、結婚なんて夢にも考えられなかった。
それでも、生まれ持った性格が真面目だったため、いろんな家から仕事を頼まれ、村から一歩も離れず一所懸命に働く日々を送っていた。

ある日、仕事先に向かって歩いていると、大木の下に座っていた老人たちが、若者を呼びとめた。
ひとりの老人が口を開いた。
「おまえは一生そんな暮らしをしていくつもりか?」
若者はぶっきらぼうに答えた。
「オイラの暮らしなんてそんなもんですよ、ご老人」
老人は首を左右に振りながら言った。
「人にはその人なりの生まれ持った福というものがあるんじゃ。
若い者は何か道を探してみなくちゃいかん。
噂によると、西天西易国に行けば福を授けてもらえるという話じゃ」
若者は老人の話に興味がわいてきた。
「あのぉ、その西天西易国っていうのはどこにあるんですか?」
老人は笑って答えた。
「西にあるから西天西易国というんじゃよ、ハッ、ハッ、ハッ」

真面目な若者は、その話を信じた。
若者は小さな風呂敷包みを背負い、西天西易国に向かって旅立った。
老人が教えたとおりに、とにかく西へ西へと歩いた。
汗をかきながら歩いているうちに日が沈み、まわりが真っ暗になった。
泊まるところを探してみたが、人家はなかなか見つからない。
さらに夜道を進むと、前のほうに小さな灯りが見えた。

大きな瓦葺の家には、きれいな娘がひとりで住んでいた。
娘は若者に夕飯を出したところで、                   
「ひとりでどちらへ行かれるのですか?」
と尋ねた。
「福を授かりに西天西易国まで行くところです」
ご飯を口に含んだまま、若者は答えた。
娘はしばらく考えこんでいたが、決心がついたのか、男にこう言った。
「お願いがございます。
私には財産はありますが、夫運に恵まれず、このように一人暮らしでございます。
婚約が決まるたびに相手の方が亡くなってしまうのです。
いったいどういう殿方に出会えば幸せになれるのか、その国で聞いていただくわけにはまいりませんか」
若者は「そのようにしましょう」と答えた。

夜が明けると、男は家を出て、西天西易国に向かって歩き出した。
歩いているうちにまた日が沈んだので、一晩泊めてもらうために、ある家の門を叩いた。
その家の主人も「どこへ行くのですか?」と聞いてきた。
「西天西易国に福を授かりに行くところです」
若者は前と同じように答えた。
すると、その主人も頼み事をしてきた。
「私の願いを聞いてください。
畑に梨を三本植えましたが、時期がとうに過ぎているのに実が生りません。
その訳を聞いてきてくれませんか?」
若者は「そのようにしましょう」と答えた。

こうして、もうひとつの頼み事を託された若者は、旅を続けた。
休まず西へ西へと歩いていると、大きい川にぶつかり、道が塞がってしまった。
どうやって渡ろうか思案していると、大蛇が現れ話しかけてきた。
「おまえはどこへ行くのだ?」
若者はガクガク震えながら
「福を授かりに西天西易国へ行くところです」
と答えた。
「そうか。それなら私が川を渡してあげるから、頼みを聞いてくれないか?」
大蛇はとぐろを解きながら言った。
男は、またかと思ったが、大蛇が怖くて断れなかった。
「お願いって何ですか?」
「修行をして千年過ぎたら龍になって昇天できることになっていた。
ところが、千年をとうに過ぎたというのに、一向に昇天できない。
どうすればよいのか西天西易国で聞いておくれ」
若者は「そのようにしましょう」と答えた。
返事に喜んだ大蛇は、若者を乗せて勢いよく泳ぎ出し、半刻もしないうちに対岸へ着いた。

若者は、また西に向かって歩き出した。
しばらく歩くと、子供が土手で釣りをしているのが見えた。
近づいて魚カゴを覗くと、その中には小魚一匹いなかった。
若者は子供に声をかけた。
「一匹も釣れてないね」
子供は釣竿を持ったまま振り向いて言った。
「お兄さんはどこへ行くの?」
「西天西易国というところへ福を授かりに行くんだよ」
「ボクはここでずっと釣りをしてるけど、声をかけられたのは初めてだ。
ひとつお願いしてもいい?
大きい魚を釣るにはどうしたらいいか聞いてきてくれる?
若者は「そうすることにしよう」と答えた。

子供と別れて、また歩き続けた。
険しい峠をいくつか越えたところで暗くなり、道がわからなくなってしまった。
迷い歩いていると、遠くに灯りが見えた。
そこは、小さな藁葺き屋根の家だった。
庭に入ると、老婆が台所で薪をくべていた。
若者は泊めてもらえるよう頼んだ。
「おばあさん、道に迷って日が沈んでしまいました。一晩泊めてもらえませんか」
老婆はしゃがんだまま答えた。
「狭くてむさ苦しいところじゃが」
若者はさらに頼み込んだ。
「そんなのかまいません。
お願いですから泊めてください」
老婆は「それなら泊まっていきなされ」
と言い、家に入った。
夕飯に出てきたのは、大根三切れと冷たい水一杯だけだった。
老婆はカゴを編みながら言った。
「ふだん食べられるのはこれだけなんじゃ」
翌朝出された食事も同じものだった。

若者が出発しようとすると、老婆は呼び止めて聞いた。
「おまえはどこへ何をしに行くんじゃ?」
若者はまたかと思いながらも答えた。
「福を授かりに西天西易国へ行くところです」
返事を聞いた老婆は、意外な言葉を口にした。
「いったいどこに行って福をもらうつもりなんだい。
これ以上歩いたって無駄だから、そのまま帰りなされ。
帰れば何とかなるさ」
若者は驚いて言った。
「来る途中でお願いされたことがたくさんあって、このまま帰ることはできないんです」
老婆は大声で言った。
「そのお願いってのはなんじゃ!」
そこで若者は老婆に、来る途中で頼まれた事の数々を詳しく話した。
話を聞き終わった老婆は、何かを思い出すように言った。
「そんなの大した事じゃないさね。
釣りの子供にはビンタをくらわすだけでいいんじゃ。
大蛇は、口にふたつ入れている物のうち、ひとつを出せばよい。
畑の主人は、梨の木の下に埋まっている物を掘り出して捨てるのじゃ。
それから、最初の娘は、童子参と宝珠と金塊を持っている男に出会えば幸せになるんじゃ」
「ありがとうございます、ありがとうございます」
若者は何度もお礼を言った。

この真面目な若者は、老婆の話を信じて道を戻ることにした。
まず土手で釣りの子供に出会った。
子供はあいかわらず釣竿を持ったまま言った。
「お兄さん、わかった?」
「悪いけど、おばあさんがこうしろって!」
そう言いながら男の子の頬をぶん殴った。
すると、子供はバタンと倒れて動かなくなった。
目を凝らして見ると、それは子供の形をした根っ子だった。

その根っ子を風呂敷にしまい、道を進んで大蛇に会った。
「昇天する方法はわかったか?」
若者は頷きながら答えた。
「わかりました。
川を渡してくれればお話しましょう」
反対側の岸に着くと、若者は大蛇に言った。
「口の中に何があるのかわかりませんが、ふたつ入れているのはダメですって。
ひとつを捨てれば天に行くことができるそうです」
「そうだったのか、ふたつ入れてればもっとうまく昇れると思っていたんだよ」
そう言うと、大蛇はすべすべした丸い石をひとつ吐き出した。
すると、天地が揺れて雷が鳴り始め、大蛇は龍になり天に昇って行った。

若者は、大蛇が吐いた玉を風呂敷にしまい、自分の家がある村へ向かって歩き出した。
しばらくすると、梨の屋敷に着いた。
若者を見た主人は言った。
「私が頼んだことはわかりましたか?」
若者はニコッと笑って答えた。
「梨の木の下に埋まっている物を掘り出せば実をつけるそうです」
主人は召使に鍬を持ってこさせ、すぐに掘り始めた。
三尺ほど掘ると黄色の石が見えた。
「お礼としてお持ちになってください」
主人はそう言って、石を若者に手渡した。

若者は石の塊を持って帰りを急いだ。
しばらく歩くと、美しい娘が住む家に着いた。
娘は若者を招きいれ、お茶を出したあと小声で言った。
「ご無事のお帰り、おめでとうございます。
それで、男性運に恵まれる方法はどうなりましたでしょうか?」
若者は申し訳なさそうに答えた。
「もちろんわかりましたが、そう簡単ではないようです。
童子参と宝珠と金塊を持っている男に出会えば幸せになれるそうです。
そうでないかぎりは、どんな人に出会ってもダメみたいです」
話を聞いた娘は悲しそうな顔をして
「そのような方と巡り会うにはどうしたらよいのでしょう」
と言い、ため息をついた。
しばらくして、若者が目の前に座っていることを思い出した娘は、顔を上げて尋ねた。
「あなた様は、福を授かることができたのでございますか?」
「山中で出会ったおばあさんに引き返したほうがよいと言われました。
帰る途中で、小さな根っ子と丸石、それと石の塊をもらっただけです」
「そうでございますか。
ちょっと見せていただいてもよろしゅうございますか?」
若者は「いいですよ」と言って、風呂敷を広げて中身を娘に見せた。
それを見た娘は驚いて言った。
「これは童子人参に違いないし、これは玉で、これは金です!」
娘は大粒の涙をこぼしながら、若者に向かって言った。
「やっと生涯の伴侶に巡り会うことができました」

こうして、若者は綺麗な娘と結婚し、庄屋の主人となった。

(text by 阿伊宇得憶)

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